ちいさなばけものの話

とおい川辺のお家にちいさなばけものが棲んでいる。

 

ちいさなばけものは写真を撮るのが好きだった。

時が流れれば流れたぶんだけ、花を、山を、湖を撮りに出掛けて行った。

彼のぴっちりした性格を撮ってきたかのような、間違いなくうつくしい写真を、ふうん、とだけ思っていた。

わたしは反抗期だった。

 

ちいさなばけものはハイカラなばけものだった。

海の向こうで新しいゲームが出るたびに取り寄せて、画面のなかでばんばん銃を撃っていた。

彼のホームページにはうつくしい花の写真と薬莢ちらばるゲーム攻略が並んでいた。

わたしは嘘つきだった。

 

ちいさなばけものは、さいきんすこしずつ色んなことを間違えはじめて、もう写真も撮らないしゲームもしなくなった。陽だまりの棲家でいちにちのほとんどをしずかに過ごしている。

きっとこれから増えることのない完璧な写真を、あなたの手で刷り出された写真を、ほしいと言ったら分けてくれるだろうか。ほしいと言いに帰るまで、そこにいてくれるだろうか。

あたたかくて脆い、グレーの瞳を持っていた。

 

 

ことばにすることは何かを選びそこねることだから、ひとつ語ればひとつ嘘になるのだと思う日があるのです。

いつか対岸へ渡るばけものの、いつか、をぜんぶ嘘にするために、わたしはとびっきりの嘘つきになる。

いつかはいつまでもこなくって、ちいさなばけものは今日もあたたかいまま、グレーの瞳で陽だまりの棲家にねむっている。

 

 

やさしいやさしいばけものの話。