やつあたり
プチシューをほおばる事務のおんなのこの隣で、わたし今ならきっと刺されてあげられる、と思った。
たとえば迷い込んできたすずめばちに。流行り病を防げない注射針に。強盗犯のさみしいナイフに。
それから。
──個別の、たくさんの、花とかそういったものから抽出された〈うつくしいもの〉という共通点がある。
大抵のごはんはつくっている間に食欲を失って、なかば拷問のような気持ちで食べる。
ハイヒールで武装して仕事へゆく女の人の漫画、
恵まれているのはわかっているので、捨て鉢に右手の指輪を増やしてみる。
──〈うつくしいもの〉に人間を含むかわかりませんが。
ひとつ行えばみっつよっつの非難の声が聞こえてくる。
それらはぜんぶわたしの声をしていて、いいえ、でも、
たのしかった食卓の残滓にばかみたいな量の粗挽き胡椒をかけて口に押し込む。
わかるんです、これ男のひとの匂いでしょう、
四半世紀近くも生きてきてまだこんな子どもじみたことをして、
じぶんのことばかり書くわたしのことをなんとでも罵って、
それで、最後の一押しにしてほしい、
だめになったらざまみろって顔するんでしょう。
ベランダの雨ざらしの隈の隈のうつくしい、
物干し竿に右ひざの裏をあてて、足かけまわりをするのが夢なんです。
──温めてもヒナは出てこない。
まちがいないです、うん。
ごみばこを隔てて伝染らない口癖があかるくちらばっている。
(夢のあるはなしばかりがしたかったのに)