ぴかぴか

 嫉妬はひらめくのだと最近知った。
 たとえば毎朝パンの焼ける匂いで目が覚めるという同僚に、山じゅうに張り巡らされた樹の根を踏まずに歩ける恋人に、彼を救うことのできるすべらかな幹に、真っ暗な高速道路のいっしゅんの静寂に。目の前がぴかっとする。すっかり眩んでいつの間にか肩で息をしている。

 

 たとえばほんとうはもうそんなひかるところへ行かないでほしいし、そうでなければどこへでも連れて行ってほしい。わたしまだ15階の女子トイレでべそをかいて動けないのに。ぴかぴか。こんなにわかりやすく書かれたことすらまともにできなくて残業ばっかりしていると目の前の男が鼻で笑ってくるので一瞬でおなかの底が熱くなる。こんなふうに煮えてしまうためのからだでないのに。ままならない。あたまがわるい

 何がそんなに足りないのかよくわからないけどわかったところで手に入らないんでしょとおもう、そのよくわからないけど手に入らないものばっかりが息づいていて、11月も終わるのに朝がぜんぜんつめたくなってくれない。満員電車でべこべこに押されている。みんなじょうずに歩けていいな。ぴかぴかぴか。

 

 でも、べつにだからどうしたいってわけでもなくて、ただ途方もなく暴力的な光りかたをわたしの目は覚えようとしている。ぴかぴかしたがる両の目をあしたは秘蔵のハーゲンダッツで抑えるつもり。